自動車のエンジンオイルについて

 

 自動車を運転される方で「エンジンオイル?聞いた事無いなぁ~」と仰る方はほぼいらっしゃらないと思います。ではエンジンオイルの役割とは?どんな種類があるのか等、具体的には?と聞かれると細かなところまで精通されている方は少ないのではないしょうか。

 実際には様々な種類があり、用途に合わせて適切なエンジンオイルを選ぶ事が大切です。まずは、適切なエンジンオイルを選択するに当たって、エンジンオイルの役割、種類や特性について、説明して行きたいと思います。

●エンジンオイルの役割

 「エンジンオイルの役割って何?エンジンに入れておくだけじゃないの?」 一般的にこんな風に受け止めておられる方も多いのではないでしょうか。勿論それで間違いではないのですが、エンジンオイルには他にも重要な役割があります。その役割を5つに分類する事が出来るので見ていきましょう。

エンジン各部を円滑に動かす潤滑作用エンジンは金属の部品で構成されていますので、パーツの摩耗やエンジンの焼き付けを防ぐ為に、エンジンオイルは欠かす事が出来ません。加速性能を維持する為には、エンジンがスムーズに動作する事が欠かせません。
密封作用エンジン内部のピストンとピストンリングと呼ばれる部品には隙間があります。 この隙間は、エンジンオイルによって、密閉してガスが抜けるのを防ぎ、エンジンのパワーを保ちます。車は長く乗っているとパーツが摩耗しますので気密性を維持する事が難しくなってきますが、エンジンオイルを定期的に交換する事で密封効果を維持させる事が出来ます。
冷却作用エンジンが稼働していると熱が発生します。このエンジン内部の熱を吸収・冷却しエンジンがオーバーヒートするのをエンジンオイルが防ぎます。
熱を吸い取ったエンジンオイルは一旦オイルパンに蓄積され、温度が下がると再びエンジン内部を循環して冷却機能を維持しています。
洗浄作用エンジン内部に発生した不純物(スラッジ)等を取り込み、エンジンの内部を綺麗に保ちます。汚れ等を取り込んだエンジンオイルは黒く変色していきます。
防錆作用運転中エンジン内部は非常に高温になります。温度変化によって発生した水滴がパーツに付着して錆の原因になるのを、エンジンオイルが循環する事で防いでいます。

●オイル交換の必要性

 上記でも起筆しましたが、エンジンオイルはエンジン内を循環する内に、不純物や水分、有毒なガス等、様々な異物を取り込みます。その為劣化したエンジンオイルを使用し続けると、エンジンが持つ本来の性能を発揮する事が出来ません。燃費が悪くなり、馬力が下がります。パーツの摩耗やエンジンの焼き付きは寿命を短くし、最悪の場合は故障を起こします。

 劣化したエンジンオイルで車を走らせても良い事は何一つありません。エンジンオイルは車の血液です。真っ黒になってもドロドロになっても、車を動かそうと一生懸命に頑張っています。ただ黒くなっているだけなら正常な劣化ですが、濁りが生じていたり、茶色になっている場合は要注意です!水分が混入している可能性があります。

 エンジンオイルは、使用していると少しずつ減っていきますが、新しいオイルを減った分だけ足しても殆ど意味がありません。継ぎ足しだけでは根本的な解決にはなりませんので、エンジン警告灯が点灯する等お手上げ状態になる前にメンテナンスしましょう。

●エンジンオイルの規格

◇日本で使用されている主な規格

 エンジンオイルには、主に粘度とグレードの規格があります。エンジンオイルはどれを使っても良いという訳では無く、その車に合ったエンジンオイルを使用する事ではじめて、車の性能を発揮させる事が出来ます。カーアクセサリー売り場で「おっ!このオイル安いなぁ~!」「このオイルは性能がいいのかぁ!じゃぁ使ってみよう」と良かれと思って選んだオイルが愛車に合っていなければトラブルの原因に成り兼ねません。オイルは車の取扱説明書に記載されたスペックを選ぶ様にしましょう。

 エンジンオイルの規格は多数有りますが、日本で使用されている主な規格は以下の3種類になります。

API規格
(エー・ピー・アイ)
アメリカ石油協会が定めた石油に関する規格の総称。ガソリンエンジン向けは「S」。ディーゼルエンジン向けは「C」から始まるアルファベット2文字で品質表示される。ガソリン・ディーゼル両方に対応している場合は「S○/C○」と表記される。
ガソリンエンジンはSAからSNまで12段階ありましたが、2020年に新規格「SP」が設定され現在は13種類になりました。Sの次に表記されているアルファベットが後ろに進む程オイルの性能は高くなります。
ILSAC規格
(イルサック)
国際潤滑油標準化委員会が、自家用自動車のエンジンオイルを定めた規格。「GF-」から始まる表記で後ろに数字が付く。数字が大きくなる程、省燃費性能が向上しています。
JASO規格
(ジャソ)
日本国内の独自規格で、日本自動車技術会規格」の略になります。特にディーゼルエンジンオイルの規格をけん引する存在。他にも二輪車用2サイクルエンジンや4サイクルエンジン油の規格細分されている。ディーゼルエンジン用の表記には「D」から始まる2文字のアルファベットと数字が組みあわされている。

 エンジンオイルの表記について、上記に簡単にまとめました。

サンプルでは【5W-40】と表記されていますが、この「5」の表記は温度が低い時の固まり難さ・粘度を表わしています。この数字が小さい程、冬場(寒冷地)の低温時やエンジン始動直後のエンジンオイルが冷えている時にエンジンにかかる負荷が減ります。

 後ろの「40」は高温時における粘度を表しており、この数字が大きい程、エンジンオイルの粘度は固くなります。

 エンジンオイルは用途に合わせて選ぶ必要がありますが、ハイブリッド車等、エンジンへの負荷が少ない車では「0W-20」や「0W-15」等の低粘度オイルを。ターボ車やハイパワー車等の場合は「10W-40」や「15W-50」等の、高負荷に耐えうる粘度のオイルを選ぶ必要があります。

 しかし、近年の自動車は、メーカー指定のエンジンオイル粘度が低く設定されている事もあります。 例えば、軽自動車のターボ車では「0W-20」指定の自動車も多く見受けられます。これはエンジンオイルの性能の向上や、低燃費を実現する為に、エンジンを開発するに当たって低粘度のエンジンオイルが採用されている為です。「ターボ車なのにそんな低粘度のエンジンオイルで大丈夫なの?不安だから固いの入れておこう!」 と個人的に粘度の高いオイルを選択する事も可能ですが、結果として燃費が落ちてしまう懸念もあります。 基本的にはメーカー指定のエンジンオイル粘度を基準に選択し、そこからあまり粘度を落とす事はおすすめしません。 エンジンの性能低下や、最悪の場合、エンジンの焼き付き等、エンジン自体の故障につながる場合もあります。

<余談その1> シングルグレードのオイル

 チューニングカー等においては、「10w-40」等のエンジンオイルではなく「50」と表記されるようなエンジンオイルが使用される事があります。これは、シングルグレードと呼ばれるエンジンオイルで、文字通り粘度が「50」だけになります 。低温時・高温時関係なく常に安定してこの粘度の為、冬場やエンジン自体が冷えている時は負荷が大きくなります。

 なぜ、この様なエンジンオイルを使用するのかというと、連続で高負荷走行を行う場合等、安定した高粘度のエンジンオイルの方が都合が良いからです。 しかし、普段の街乗りに使用する場合や、冬場の通常使用には勿論適しません。その為、一般的な自動車には「10w-40」の様な、オールシーズンに対応した、マルチグレードオイルというタイプが主流になっています。 そもそも、シングルグレードのエンジンオイルは製造しているメーカーも少なく手に入りにくいですし、よほどのマニアか、競技車両ユーザーでもない限りは、一般的にはお目に掛かる事はないでしょう。

 エンジンの構造上、旧車の空冷自動車や旧車のハーレー等は、シングルグレードの方が都合が良い為、使用される事があります。

<余談その2> モータースポーツのエンジンオイル

 モータースポーツのレース車両においては、「予選用エンジンオイル」「決勝用エンジンオイル」というオイルも存在します。 予選では、基本的には限られた時間・少ない周回の中で一発のタイムを出しに行く為、低粘度で低負荷のエンジンオイルが使用されます。エンジンオイル自体の寿命が100km程度に設定されている物が多く、正真正銘タイムを出しにいく為の、予選一発用のエンジンオイルになります。 これが決勝用エンジンオイルになりますと、一般的には高粘度で高耐久のエンジンオイルが使用される様になります。レースの決勝は、常時高負荷状態で連続周回走行になる為、エンジンの焼き付き防止や保護の意味も含めて、この様なエンジンオイルが使用されます。

◇エンジンオイルのグレード

 エンジンオイルのグレードには、API規格とILSAC(GF-5)規格という2種類の規格があります。 API規格は、米国石油協会(API)とSAE、アメリカ材料試験協会(ASTM)の三者が定める規格になります。 ガソリン自動車の場合は「S」から、ディーゼル自動車の場合は「C」から始まる記号で分類され、後ろに付くアルファベットが大きくなる程性能が高くなります。 SAから始まり、現在はSPまであります。 近年では、省燃費性能が重視され、基本的に出回っているオイルは、SN規格の物が主流となっています。  ILSAC(GF-5)規格は、日米の自動車工業会(ILSAC)が制定しており、API規格に更に省燃費性能を加えたものです。 GF-1から始まり、現在はGF-5が最高グレードです。

API規格ILSAC規格特    徴
SAベースオイルと呼ばれ、添加物が不要な運転条件が緩やかなエンジンに使用されるが、現在の自動車には適さない。
SB最低レベルの添加物を配合したオイル。かじり(焼き付き)防止・腐食防止性・酸化安定性の機能が備わっている。
SC1964~67年型のガソリン車用エンジンオイル。デポジット(堆積物)防止性・磨耗防止性・サビ止め性・腐食防止性が備わっている。
SD1968~71年型のガソリン車用エンジンオイル。全体的にSCより高い品質レベルを備える。
SE1972~79年型のガソリン車用エンジンオイル。SDより酸化防止性・サビ防止性・腐食防止性の性能が良い。
SF1980~88年型のガソリン車用エンジンオイル。酸化安定性、高温及び低温デポジット(堆積物)、やバルブ機構の摩耗防止性、錆・腐食に対する防止性能が向上している。
SG1989年以降のガソリン車用エンジンオイル。酸化安定性と動弁系の耐摩耗性能と防錆効果を発揮。エンジン本体の長寿命化につながる性能がある。
SHGF-11993年以降のガソリン車用エンジンオイル。SGの性能に加え、低オイル消費・省燃焼性・低温始動性・スラッジ防止性高温洗浄性が向上している。
SJGF-21996年以降のガソリン車用エンジンオイル。SHの性能向上にプラスして、蒸発性、せん断安定性(粘度低下に対する抗性)が向上。
SLGF-32001年以降のガソリン車用エンジンオイル。SJの性能に加え、オイルの耐久性、酸化安定性が向上。省燃費性が向上し、排ガス浄化・オイル劣化防止性能向上・CO2の削減など環境保護にも対応。エンジンの長寿命化を実現。
SMGF-42004年に制定。SL性能に加え、オイルの耐久性能、耐摩耗性、耐熱性、浄化性能、省燃費性能レベルが向上、有毒排ガスが低減。
SNGF-52010年に制定。SMに比べて、省燃費性能の持続性が更に向上し、触媒保護性能も強化。省燃費性能レベル向上しCO2の削減等環境保護にも対応
SPGF-62020年に制定。SNに比べて耐摩耗性、清浄性、耐久性の強化と共に省燃費性が大幅に向上。最高級グレードのガソリン車用エンジンオイル。
*オイル性能は表の下に行くほど高くなります。*省燃費性能は表の下に行くほど高くなります。

 また、ディーゼルのエンジンオイルについては、API規格のCG-4油を使用すると動弁系摩耗が多い事から、日本としてのディーゼル油規格が必要になり、日本自動車工業会と石油連盟が共同でJASO規格を制定しました。以降、国産自動車のクリーンディーゼル自動車に対応した、独自のJASO規格という物が主流となっています。一般的に乗用車に用いられるのは「DL-1」と言うグレードになります。DPF装着車にはDL-1やDH-2が使用されます。

 ※ DL→ディーゼルライト

   DH→ディーゼルヘビーの略

DL-12005年に制定。国産クリーンディーゼル乗用車(乗用車やハイエースクラス)に対応。DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)の目詰まり防止、寿命の向上。高温酸化防止性能強化。省燃費性が規定されており、環境負荷も軽減されている。DPFの詰まりの原因となる灰分量(燃料残渣物)が0.6%以内。
DH-12000年に制定。建設機械等大型ディーゼル車の使用を前提としたグレード。清浄性能、高温デポジットの抑制、せん断粘度低下、オイル漏れ対策、蒸発損失の抑制などCDよりも性能向上。動弁系摩耗防止性能の強化が加味さされている。
DH-2トラック等に使用。DH-1に加え、エンジンの清浄性、摩耗防止性、DPFの詰まりの原因となる灰分量(燃料残渣物)が1%以内。触媒性能を損なう懸念のある成分の低減

 ※CD→ 幅広い品質の燃料に使用する事の出来る過給式ディーゼルエンジンオイル。高速高出力運転での高度の摩耗及びデポジット防止性をクリア。

●エンジンオイルの種類

◇エンジンオイルの成り立ちと相関図

 エンジンの種類に応じて、ガソリンエンジンオイル、ディーゼルエンジンオイルの2種類に大別する事が出来ます。

 ガソリンエンジンオイルは更に、自家用車用、バイク用、2ストロークエンジン用に細分類する事が出来ます。ディーゼルエンジンオイルの場合はオンロード用とオフロード用にと、ここでもまた細分類されます。

 また、エンジンオイルのベースとなるオイルそのもの(原料組成)にも種類があり、化学合成油(または合成油)・部分合成油・鉱物油の3種類に区分されます。

化学合成油化学的に合成され、原油から可能な限り不純物を取り除いた高純度の最高品質エンジンオイルになります。 不純物を含まない為潤滑性能が高く、また高い安定性や流動性を持ち合わせ、エンジン内部を強力に保護します。また耐熱性が高い為オイルの劣化を抑制します。 粒子の分子が小さい為、古い自動車等に使うと、オイル漏れの原因になる事があります。 製造コストが掛かる為、比較的高価になります。
部分合成油化学合成油に鉱物油を配合したオイルです。 化学合成油と鉱物油を配合する事で、コストを抑えながらも、優れた性能を発揮するオイルです。 鉱物油は低温始動性が悪いというデメリットがありますが、耐熱性能が高い化学合成油がこのデメリットを補っています。こちらのオイルも、あまり古い自動車などへの使用は向きません。
配合割合は化学合成油20%以上、残りを鉱物油が占めます。化学合成油よりも安価な上、環境対応や省燃費対応したオイルも有り、性能面・価格面でバランスの取れたエンジンオイルです。
鉱物油原油を蒸留して不要な成分や有害成分を取り除かれているオイルです。ベースオイルの中では一般的に普及しており、日常の使用には鉱物油で問題ありません。また分子が比較的大きい為旧車等古い自動車への使用に向いています。

 エンジンオイルは、3種類のベースオイル(基油)に様々な添加剤を配合して出来上がります。

◇バイクのエンジンオイル

 「自動車のエンジンオイルとバイクのエンジンオイルってどう違うの?」 「自動車のエンジンオイルはバイクに使っても大丈夫なの?」と思ったことがある人はいませんか? まず、構造的な話になりますが、 自動車のエンジンオイルは、エンジンのみに使用されますが、バイクの場合はそうではありません。 バイクはエンジンの構造上、エンジンオイルがエンジン・ミッション・クラッチに使用されます。 自動車とバイク兼用のエンジンオイルであれば、勿論問題なく使用出来るのですが、自動車専用のエンジンオイルをバイクに使用すると、エンジンオイルに配合されている添加剤によっては、バイクのミッション・クラッチに悪影響を及ぼす物もあります。

  また、バイクはエンジン排気量が自動車よりも小さく、1気筒当たりの馬力も大きくなり、高回転・高温・高負荷の環境化で使用される為、バイクのエンジンオイルは、これらを考慮して作られています。よってバイク用のエンジンオイルを使うのが好ましいでしょう。  ただし、スクーター系はエンジンと駆動系が別になるので、自動車のエンジンオイルも使用出来ます。

◇ローバーミニのエンジンオイル

  ローバーミニのエンジンオイル、実はこの自動車もエンジンとミッション、更にデファレンシャルまでオイルが兼用タイプになっています。エンジンとミッションが合体して二階建てのような構造になっているので、兼用になるのですが、エンジンもデリケートなのでこの自動車もオイル選びは重要になります。 特にAT車は、ここから更にトルクコンバーターのオイルも兼用していて、トラブルが多い傾向にありますので、エンジンオイル選びと管理には注意が必要です。

◇2ストロークエンジンのオイル

 バイクのエンジンオイルに触れたので、併せて2ストロークエンジンのオイルについても解説させて頂きます。 勿論、自動車にも2ストロークエンジンの自動車は存在しますが、非常に少ない為、あまり目にする事はないでしょう。 そもそも2ストロークエンジンとはなんぞや?と思われる方もいるのではないでしょうか? 現在は環境問題で、新車で2ストロークエンジンを搭載した自動車やバイクは販売されていませんので、若い方ではご存じ無い方もいらっしゃると思います。 通常のエンジン(この項目では区別の為「4ストロークエンジン」と記載します)では、エンジンが回転する1サイクルの間に、ピストンの上下の工程が4回行われる為、4ストロークエンジンと呼ばれます。これが今一般的に普及している自動車やバイクに搭載されているエンジンです。 それでは2ストロークエンジンはと言いますと文字通り、1サイクルの間にピストンの上下の工程が2回行われる為、2ストロークエンジンと呼ばれます。 「2回と4回で何が違うの?」と思われるかも知れませんが、それぞれのエンジンにメリット・デメリットがあります。

4ストロークエンジン排気ガスが抑制しやすく、燃焼効率や熱効率がいい為燃費がよく、騒音も少なく、低回転時の安定性もあります。 一方で、部品点数が多く、重量も増える為に、コストの面で費用が掛かりやすく、整備時の費用や手間も掛かります。
2ストロークエンジン4ストロークエンジン同排気量エンジンと比べるとパワーが出しやすく、エンジン自体の構造も単純なので部品点数が少なく、小さく作って軽量化が可能になります。 また、上記の特徴から整備に掛かるコストや手間についても抑える事が出来ます。しかし、排気ガスや白煙が多く、騒音も大きくなります。 オイル管理を怠ると、焼き付きによってエンジンの故障に直結します。

 上でも触れましたが、2ストロークエンジンは混合気に2ストロークエンジンオイルを混ぜて一緒に燃焼させる事により、シリンダーやクランクケースの潤滑を行っています。4ストロークエンジンでは、エンジンを潤滑する役目が大きく、エンジン抵抗等で、多少はパワー等にも影響はありましたが、2ストロークエンジンではエンジンオイルを直接燃焼させている為、エンジンオイルが直接パワーに直結します。 使用するエンジンオイルの種類によって、パワーの出方や最高速度にも影響が出ます。 通常のエンジンオイル同様、2ストロークエンジンオイルも各メーカーが配合を変えて数種類販売しています。

 何を求めるかによって、このエンジンオイル選びも変わってきます。 低回転から高回転まで安定しているエンジンオイル、冬場や寒冷地でも固くなりにくいエンジンオイル、レース用に高回転高負荷でも、エンジンを保護して焼き付き難くしてくれるエンジンオイル等、その用途は様々なので、目的に応じた適切なエンジンオイルを選ぶ必要があります。

 2ストロークエンジンオイルにも規格があります。 Fから始まるグレードで、Fの次に来るアルファベットが後へ行く程グレードが高くなります。

FB芝刈り機等に使われる、安価な一番下のグレードです。バイク等に使われることはほぼありません。
FC基本的なグレードのオイルです。FBよりも煙が出にくいオイルになります。
FD現在最上位のグレードのオイルです。FCよりも煙が出にくく、清浄性も高いオイルとなっています。

●オイルエレメントについて

 オイルエレメントにも種類があります。 通常の外側のケースごと交換するタイプと、カートリッジ式と呼ばれる中身の濾紙だけを交換するタイプがあります。後者は輸入車に採用されている事が多いですが、近年では国産自動車にもこのタイプが増えてきました。

 オイルエレメントは、エンジンを循環しているエンジンオイルを濾過する役割がありますが、オイルエレメント内の濾紙が汚れてくると、目詰まりを起こします。 濾紙が詰まってしまい、エンジンオイルの流量が減ってくると、オイルの流量を確保する為に、バイパスバルブという物が開き、濾紙を介さずに直接オイルが循環します。こうなると汚れたエンジンオイルがそのままエンジン内を循環する事になりますので、オイルエレメントも定期的な交換が必要になります。

●エンジンオイル交換の頻度

◇標準とシビアコンディションの違い

 さて、皆さんは何㎞走行したらでエンジンオイル交換をしていますか? 一般的には3000~5000㎞程度の頻度でエンジンオイルの交換、2回に1回オイルエレメントの交換が好適ですが、必ず○○㎞でしなければならないと決まっている訳ではありません。あくまで目安にはなりますが、各メーカー共交換頻度は指定しています。 この交換頻度も、標準使用とシビアコンディションとでは変わってきます。

<シビアコンディション>

・悪路走行が多い(凹凸道、砂利道、雪道等)
・走行距離が過大
・短距離走行の繰り返しが多い
・アイドリング時間が長い
・一回の運転での走行距離・時間が少ない

シビアコンディション下ではおおよそ、標準の半分に設定されています。

<一例>

・標準 15000㎞または1年毎

      ↓

・シビアコンディションの場合 7500㎞または6ヶ月毎

ターボ車の交換目安普通車の交換の目安
通 常シビア
コンディション
通 常シビア
コンディション
軽自動車5000㎞
  または6ヶ月
2500㎞
  または3か月
15000㎞
   または1年
7500㎞
  または6ヶ月
ガソリン車5000㎞
  または6ヶ月
2500㎞
  または3か月
15000㎞
   または1年
7500㎞
  または6ヶ月
ディーゼル車
ディーゼルターボ車
10000㎞または1年6000㎞または6ヶ月

 近年はエンジンオイルの性能向上により、エンジンオイルの指定交換頻度も伸びてきています。これが正解というのはありませんが、基本的には上表を目安にエンジンオイルの交換、エンジンオイル交換2回に1回オイルエレメントの交換を行っていれば、大切な愛車の寿命を延ばし、長く乗る事が出来るのではないでしょうか。条件は車種や使用状況によって異なりますので、取扱説明書等で確認すると共に、不安がある場合は整備業者等に相談する事をおススメ致します。

 また、輸入車の場合は、オイルエレメントはエンジンオイル交換時同時交換という車種もありますので、適切なメンテナンスを行う事が大切になってきます。こちらも不安や不明な点があれば、整備士または整備事業者に相談される事をお勧め致します。

<余談その3> ロングライフオイル

 近年の一部輸入車には、オイル交換指定が2~3万㎞といったロングライフオイルが採用されている自動車があります。 実際その距離までエンジンオイルの交換をしなくてもいいのか?と聞かれる事がありますが、使用状況によってオイルの寿命は変わりますので、そこは人それぞれ自動車の乗り方や使い方、フィーリング等を踏まえ、適切に判断して頂く必要があります。

 一番のメリットは何と言っても交換サイクルが長い為、カーショップ等に足を運ぶ頻度が軽減されます。VW向けに開発されたエンジンオイルでは最長30000㎞、約2年間交換しないでOKというエンジンオイルがありますが、これが国産車に合うかというと話は別物です。ロングライフオイルをチョイスする場合も、車種に合ったオイルを選択しましょう。

●エンジンオイル交換と点検

 さて、いよいよエンジンオイル交換ですが、いきなりオイルを抜いてはいけません!では、まず点検では何をどう見るのでしょうか?

◇点検

オイルレベルゲージで現状のオイル量の確認実際に今、どれだけエンジンオイルが入っているのか、規定量入っているのかを確認します。もし減っているならば、オイル漏れやエンジン内部でオイルを消費している可能性があります。逆に多すぎる場合も不具合が発生します。レベルゲージを確認せずにエンジンオイルを抜いてしまう方結構いらっしゃいますがここ非常に重要です。
外観でエンジンやオイルエレメントからのオイル漏れがないか確認
 
外観を確認し、エンジンオイルの漏れがないか確認します。 漏れがある時は、状態によってはエンジンオイルの交換をする前にオイル漏れの修理をする必要があります。特にレベルゲージで確認してエンジンオイルが減っている場合は要確認です。
オイルフィラーキャップの内側を確認オイルファイラーキャップの内側を確認しましょう。マヨネーズのような物体は付着していませんか?もし付着している場合は、エンジンオイルの乳化
が考えられます。 乳化は、水とオイルが混ざる事によって起こります。原因としては、結露や冷却水が入り込んでいる事が考えられます。冷却水が入り込んでいる場合は早期の修理が必要になります。

◇エンジンオイル交換の手順

オイルフィラーキャップ(注入口)を開ける、オイルレベルゲージを引き抜くなぜまずキャップを開けるのか?ですが、エンジンオイルを抜いてから万が一、キャップが開けられない等の自体が発生した場合、たちまち走行不能になってしまいます。 また、エンジンオイルを抜く際の空気抜きの役割にもなるので、エンジンオイルが抜けるのがスムーズになります。レベルゲージを抜くのも同様の理由です。
ドレンボトルを外してエンジンオイルを抜くエンジンオイルを抜きます。この際、古いドレンガスケットが残らないよう注意します。 古いドレンガスケットが残っているまま、新しいガスケットを取り付けて二重ガスケットになってしますと、オイル漏れの原因になります。
ドレンボトルを取り付ける古いオイルが抜けたら、新しいドレンガスケットを装着してドレンボルトを取り付けます。 この時、ドレンボルトに合った適切な新品のドレンガスケットを使う事が重要です。 もし、合っていないドレンガスケットを使用するとオイル漏れの原因になります。 きっちりとドレンボルトを締め付けたら、周りのオイル汚れを綺麗に掃除します。綺麗に掃除しておかないと、オイル注入後に確認の際にオイルが漏れているのか判別できない為、綺麗に掃除するのも重要です。
新しいエンジンオイルを注入する新しいエンジンオイルを注入します。規定量を確認し、オイルレベルゲージを抜いてから注入して行きます。 オイルレベルゲージを抜く理由は、空気抜きという意味合いからです。輸入車と一部国産自動車では、オイル経路や注入口付近の形が狭くなっており、そのままエンジンオイルを注入すると、吹き返して溢れる場合があります。その予防の為にもレベルゲージを抜いて空気抜きを確保しておきます。ただし、レベルゲージを抜いているからといって安心せず、エンジンオイルはゆっくりと確実に注入するようにしましょう。
エンジンオイルの量を確認し、エンジンを始動するオイルレベルゲージを使ってエンジンオイルの量を確認します。ゲージのL~H又は、穴が二つ空いているタイプやMIN~MAXのタイプもあるので、その間にオイルがあれば大丈夫です。 エンジンオイルの量が確認出来たら、エンジンを始動してエンジンオイルを循環させます。
エンジンオイルの量、漏れを確認するエンジンを停止したら、オイルレベルゲージでエンジンオイルの量を再度確認します。 ゲージの真ん中より上~最大までの間にあれば量は大丈夫です。少なければ補充します。最後にドレンボルトからオイル漏れがないか確認し、漏れがなければ終了です。
オイルエレメントの交換オイルエレメントを交換する場合は、エンジンオイルを注入する前に交換を行います。古いオイルエレメントを取り外し、オイルエレメントの取り付け面を綺麗に掃除します。新しいオイルエレメントのガスケットに新しいエンジンオイルを少量塗り、エンジンに取り付けます。オイルエレメントを交換した場合は、最終的にこちらもオイル漏れがないかを確認します。

<余談その4> オイルレベルゲージの重要性

 点検の際やエンジンオイル交換前に、オイルレベルゲージの確認が重要といった理由ですが、これは実際のオイル量を確認する他にも意味があります。

 輸入車の一部車種では、「オイルレベルゲージに見せかけたただの蓋」が付いているものがあります。これは専用工具のオイルレベルゲージを挿入してオイル量を確認するのですが、エンジンオイルを抜く前に量を確認しておかないと、新しいエンジンオイルを注入する時に困った事になってしまいます。 必ず毎回規定量の資料が出てくる訳ではないので、どの程度どこまで新しいエンジンオイルを注入すれば良いのか、検討が付かなくなってしまいます。また、オイルレベルゲージが電子式で物理的なゲージが存在しないタイプもあります。このタイプは車内のボタン操作によってエンジンオイル量の測定をします。何事も、事前準備と確認が大切です。

<余談その5> 「下抜き」と「上抜き」

 先程は、一般的な「下抜き」と呼ばれるエンジンオイル交換の方法をご説明しましたが、機械を使った「上抜き」と呼ばれる方法も存在します。

 上抜きの場合は、オイルレベルゲージを完全に引き抜いて、ゲージが刺さる筒に機械の管を挿入し、古いエンジンオイルを吸い上げて排出する方法です。

 上抜きのメリットは、自動車をリフトアップやジャッキアップする必要がなく、ドレンボルトに触らないので、オイル漏れを起こす懸念が減ります。しかし、ゲージの挿入口から吸い上げるので、根本的に物理ゲージが存在しないタイプにはこの方法は使えません。また、エンジン内部の形によっては、上抜きでは全体の半分もエンジンオイルが抜けないものもある為、適さない車種もあります。

<余談その6> 「ウェットサンプ方式」と「ドライサンプ方式」

  自動車のエンジンのオイル方式には2種類あります。上述したタイプは「ウェットサンプ方式」と呼ばれる一般的なものになります。これは、オイルパンをエンジン下部に備え付け、オイルポンプで吸い上げたエンジンオイルが重力による自然落下でオイルパンに戻ってくる仕組みです。

 もう一つは「ドライサンプ方式」と呼ばれるもので、オイルのリザーバータンクに回収ポンプでオイルが集められます。リザーバータンクから送り用のポンプにエンジンオイルが循環する仕組みになっており、常に安定した量のエンジンオイルを循環させる事が出来ます。オイルパンを無くす事が出来るので、エンジン自体の重心を下げる事が出来るようになり、更に強い横G等が掛かってもエンジンオイルが偏る事なく安定して供給出来るので、スーパーカーやレーシングカー等に採用されています。  エンジンオイルの交換の際には、エンジンのドレンボルトとリザーバータンクのドレンボルトの2か所からオイルを抜く必要があります。 エンジンオイルの容量がウエットサンプ方式に比べて多くなるのも特徴です。

●まとめ

 愛車に合ったエンジンオイルをお選び頂き、適切な交換を行う事が、安心安全なカーライフに繋がります。そして結果として、大切なお車により長く乗る事が可能になります。  エンジンオイルの交換は自動車にとって、一番頻度が高くなるメンテナンスになります。エンジンオイルは車にとっての血液です。体中(車中)を駆け巡って、自動車を支えています。この記事がエンジンオイルの重要性について今一度ご一考頂くきっかけになれば幸いです。