5代目プリウス(2022年~)

●プリウスは時代遅れになったのか?

 発売当初は「ハイブリッドと言えばプリウス」でしたが、今ではハイブリッドシステムは、あらゆる車種に搭載されています。もちろん初代プリウスに搭載されていたシステムと、現在コンパクトカーやSUV,ミニバン等に搭載されているシステムは同じものではありません。

 ハイブリッドの他に今では、環境にやさしいエコカーとして「EV=電気自動車」が広がりを見せています。他にも、PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle=プラグインハイブリッド車)は、ハイブリッド車に外部電源が利用でき、バッテリー容量が増えたのが特長です。万が一充電が切れてもエンジン走行ができるのでEVへの不安を払拭する事が可能です。BEV(Battery Electric Vehicle=バッテリー式電動自動)は、ガソリンを使わないのでエンジンもありません。FCEV(Fuel Cell Electric Vehicle)は水素を燃料として電気を発生させる燃料電池が搭載されていて、ガソリンは使用しません。

 この様にパワートレインの選択肢も増え、プリウスだけが環境性能に特化した車では無くなりました。ハイブリッドシステムの普及、様々なパワートレインの誕生、プリウスはトップランナーとしての役目を十分に果した様に我々には映ります。

 「いつまでハイブリッドを作り続けるのか」との問いに豊田章男社長は「プリウスはみんなの手が届くエコカーだから」と答えています。「エコカーは普及してこそ環境への貢献」という考えがトヨタにはあります。一部の人だけではダメなのだと。

 2019年、トヨタはHVに関する技術特許(23,740件)を2030年迄無償で提供すると発表しました。

 ハイブリッドシステムが既に珍しいものでは無くなっている事もあり、日本ではあまり話題になりませんが、トヨタは特許を公開する事で「みんなで一緒にエコカーの普及」をやって行く事を目指したのです。「エコカーは普及してこそ環境への貢献」を実現する為に。「みんなの手が届くエコカー」それがプリウスの存在意義であり、道標としての存在、それがプリウスなのではないでしょうか。エコカーとして、トップランナーでは無くなったとしても、プリウスは南十字星や北極星の様な存在である様な気がします。

●「REBORN」

 プリウスを今後どのような形で残すかについて、どの様な議論が重ねられたかは、5代目プリウスを発表するにあたって、また発表されてから多数のサイトで見る事が出来ます。「コモディティが勝つか、愛車が勝つか、この質問の答えを知っているのはお客様だけです。」と投げかけています。

 環境問題が社会で大きな関心事として取り扱われ、エコをうたった車が多く発売される事は自然な流れです。効率や無駄を省く事はもちろん悪い事ではありませんし、環境負荷の低減につながっているとも言えます。ですがそればかりになると、人も車も余裕がなくなっていくのではないでしょうか?ハンドルと同じです。一般車は少しハンドルを切っただけではタイヤの角度は変わらない様に設計されています。ちょっとハンドルを動かしただけでタイヤが動いてしまう様では運転しづらく、道路のちょっとした段差で常にハンドルに震えが伝わり、気が抜けたものではありません。

 近頃では「タイパ」という言葉がブームになっています。時間対効果と言えば聞こえはいいですが、短時間で効率の良さを求める為に映画や音楽を早送りで視聴する人が多いとか。テクノロジーの発展は利便性をもたらし、それが自由(な時間)の獲得になり、幸福である様に感じさせますが、テクノロジー偏重は逆に「人間らしさ」を奪っているという側面を持ちます。

 5代目プリウスの開発者たちが選んだのは「愛車」としてのプリウスの道でした。「愛車」になり得るかどうかを決めるのはユーザーです。ですが、環境を考え地球を守る事だけに特化するだけのクルマ(プリウス)は本当にこれからの21世紀にふさわしいクルマなのでしょうか?開発者たちはどんな役割を5代目のプリウスに託したかったのでしょうか?

 21世紀、環境や自然との調和・共生はもちろんの事、人がどう生きるか?その答えは効率だけを求めていては見えてこない様に思います。「人間らしく」「人としてどう生きるか」「いかに生きるか」それを考えさせてくれるのが「愛車」としてのプリウスなら・・・アトムはまた少し私たちの前に行ってしまったのかもしれません。

 人とテクノロジーの関係性の中にあって、環境性能だけではなく、車が本来持っている魅力「楽しい」や「おもしろい」「わくわくする」を、人が十分に感じる事の出来る車、心豊かになれる車、そんな車が21世紀にふさわしい車であってほしいと願います。生まれ変わった5代目プリウスは、人をも「REBORN」生まれ変わらせる車となるでしょうか。

トヨタ自動車HP 参照