4代目プリウス(2015年~現在)

●ライバル出現

 4代目プリウスが発売される2年半前の2013年6月、マツダから初のハイブリッド車が発売されました。名前は「アクセラ」。アクセラは、ファミリアに変わるマツダの主要車種(マツダの売上の3割を担っている)でしたがハイブリッドシステムを搭載するのは初!これが後にトヨタに衝撃を与える事になります。

 当時世間では「車を買うならハイブリッド」という空気が流れていました。マツダの販売店に来るユーザーも「ハイブリッドは無いのか?」と言います。営業マン達は悔しかったに違いありません。マツダ本体に、ハイブリッドシステムを開発するだけの余裕がなかった事もありますが、マツダの流儀として「重要なのは内燃機関」という考えがありました。そこでマツダはトヨタ自動車から技術ライセンス供与を受ける事を決め、2010年3月に協定が締結、ここからアクセラハイブリッドの開発に着手します。

 2013年の完成確認試乗会に同席したトヨタの技術者達は、試乗会後「うちのクルマよりいい!」と驚愕します。ハイブリッドでは世界のトップを走っていたはずのトヨタ!そのシステムを搭載したアクセラの方がいいとはどう言う事なのか?

 マツダは自分たちが大切にしてきた「内燃機関」を徹底的に研究し、高効率エンジンの開発に成功します。これにスカイアクティブテクノロジー(SKYACTIV=マツダが開発する自動車技術の総称)を組み合わせ、ここにハイブリッドシステムを導入する事で「乗って楽しいハイブリッド車」を実現したのです。

 トヨタのハイブリッドシステムを搭載するには何かと制約がありました。その一つが、『モーターを付けた際の馬力とトルクはトヨタと同じ数値に合わせる事』でした(耐久性・信頼性の維持の為)。実際にマツダはこれらを実現します。…が、走りが違う!トヨタは驚きと共にマツダの「SKYACTIV」を強く意識します。アクセラとの出会いが、その後の資本提携へと繋がっていく事になります。

●もっといい車を

 「うちのハイブリッドシステムを積んだマツダのハイブリッド車がおかしなことになっています。」その報告を聞いて豊田章男社長は広島にアクセラの試乗に行き、エンジニア達の言葉を心底実感します。それから2年後の2015年5月、トヨタはマツダと業務資本提携に合意しました。順調に売上を伸ばしていたトヨタのハイブリッド車は、この2か月後、世界累計販売台数800万台を突破します。

 4代目プリウスが発売された年から遡る事4年前の2011年、「TNG」」という言葉が生まれます。TNGAは「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー」の略で、トヨタ全体の仕事の進め方を抜本的に見直し、骨格からすべてやり直す活動と豊田章男社長も語っています。「品質に優れ、収益性のあるカッコイイ車を作り続ける事が出来る体制を全社的に整える。」と。これはマツダの「SKYACTIV」に影響を受けた結果でした。

●車づくりの先駆けとしてのプリウス

 「もっといいクルマづくり」を実現するための構想として発表された「TNGA」ですが、4代目プリウスはその第一弾モデルとなっていました。そして、「先駆け」の名に相応しく、更なる進化を遂げる事になります。ハイブリッドシステムの軽量化を実現し、燃費は全グレードで最高の40.8km/ℓの大台を達成!これは、3代目プリウスの燃費を2割も上回り、且つ小型ハイブリッド車アクアの燃費35.8km/ℓをも上回る国内トップの値となりました。

 単に「プリウス」としてだけなら燃費40km/ℓという大台を達成した事、環境性能が今まで以上に優れている事で十分「新しいプリウス」の顔に成り得たと思われます。ですが4代目プリウスの使命は単にカッコイイクルマでも、燃費や環境性能をアピールする為だけのクルマでも無く、TNGAというトヨタの「新しいクルマ作り」の基礎を構築するという役割も担っていたのではないでしょうか。

 クルマの設計思想を根本から変えるTNGAは、車種を跨いで共有化を進めコスト削減に繋げ、更には共有化で節約された時間や資金、資材等を違う箇所につぎ込む事でそれぞれの車種の持つ魅力を引き出し、差別化に繋げるという役割があります。プリウスの開発と同時期だった事もあり、4代目プリウスはそれまでのプリウスとはまた違った先駆けになる存在だったのです。

 基礎から見直した上で新開発する事で、車としての基本性能を向上させ、また現場のものづくり等の面にも言及し「賢いものづくり」を推進。無駄を省き「もっといいクルマ」を生み出す好循環を構築するTNGAが新しいプリウスを生み出し、また4代目プリウスを起点としてTNGAはスタートしたのです。まさしく「先駆け」の名にふさわしい4代目プリウスの誕生でした。

トヨタ自動車HP 参照